僕は今、幸か不幸か食品の商品開発の仕事をしている。
ふと気づいたのだが、驚くほどに食品の開発職についての情報は世間に出回っていない。
対して一部の学生や転職組にとって人気職であることも事実だ。
もともと食品の商品開発職は就職希望者にとって狭き門だ。
絶対数も少ないので先輩や知人から意見を聞ける可能性も低い。
何より話の出来る先輩や知人なぞいないのが大学時代の僕。
これは過去の僕に向けた記事でもある。
メーカーのHP見てもありきたりで「色んな食に挑戦できるのがやりがいですね。先輩達の食の感度には驚かされます!大変だけど、いつかはヒット商品を作りたいです!」なんてのが大半だ。
具体的なものが何一つ頭に入ってこない。
ザーっと調べて、食品の開発やりたい人に具体的な情報を提供しているなぁと思ったのは、みるおかさんの以下の記事くらいである。まじで。
そんなあまりにも少ない情報源に、小さな情報を加えてみようというのが本記事の趣旨だ。
今回は食品の商品開発職について、入社前後の自分のギャップみたいなものを書いてみた。
目次
学生のころの僕の漠然とした「食品の開発職」像
食品の商品開発という仕事を意識したのは、懇意にしていた先輩のススメだ。
そこから説明会などに参加したりした。
その頃漠然と思っていたイメージは以下のようなものだ。
食品の商品開発って楽しそうだよな。
トレンドとか取り入れて、自分のアイデアなんかも盛り込んで、ヒット商品作れたらやりがいありそうだな。
んでコンビニとかで自分の商品が並んでて「俺が作ったんだよ!」って自慢しちゃったり…苦笑
…しかし専門性とかないけど大丈夫かな?生命科学やってて、ほんとは製薬とか行きたかったけど全くダメだったんだよな…
まぁ入ってから頑張ればいいか。ゆくゆくは開発部長とかになってガッポリ稼ぐで!
今となっては何ともアホっぽいが、当時は割と本気でこう思っていた。
このイメージを元に、その後のギャップを挙げていく。
なお、前提として、大手の食品開発とは異なることを挙げておきたい。
僕の前職は地方のめちゃ小さい中小企業、現在も中小企業での食品開発職だ。
大手の場合お金に余裕があるので、これから語ることと違ったものがあると思う。
あくまで一中小企業、そして僕個人の一例として捉えていただきたい。
ギャップ
ギャップ1.そもそもそんなに商品の開発をやらなかった
衝撃的かもしれない。
商品開発職として入社したのにも関わらずだ。
これは前職の地方の醤油・味噌メーカーの話。
醤油とか味噌って、名の知れた大手以外は、本当に小さい蔵みたいな所が多い。
大手だったらCMで見るような「醤油は鮮度!醤油の色は、本当は赤い!」みたいな鮮度をウリにしたものや、ウェイパーみたいなお手軽化学調味料の開発に携われると思う。
だが地方の小さい所は違う。
ずっと何十年も前に開発した独自のブランドの醤油・味噌を細々と、だがガッチリと地域密着で売っている。
だからあえて新商品で勝負する必要もないし、いわばそんな金も無い。
前職はそれに比べれば幾分マシだったかもしれないが、それでも新商品は年に1つあるかないかくらいだった。
んじゃお前は何の仕事をしていたんだ?というと、品質管理やら書類の雑務だったりするわけですな。
ガンガン試作して、ガンガン味見して、ドカーンと新商品を出す、というのは全くの夢で消えたわけだ。
だから、特に地方の醤油・味噌メーカーで開発職を募集していたら、「やった開発職だ!」と安易にエントリーせず、よく考えてほしい。
僕は失敗した。
今の職場は普通に開発してますけどね。
ギャップ2.商品開発の仕事が回ってこなかった
これも衝撃かもしれないw
また前職の話。
ギャップ1で述べた様に、新商品を作らないので、開発の仕事はそもそもそんなに無い。
だが厳密には全くないわけではなく、開発案件はちょこちょこあった。
顧客から営業を通した開発依頼やOEM(ぐぐってくれ)の相談だ。
悲しいかな、ベテランのおっさんが一人で業務を進めていたため、そういった調味料の開発依頼はほとんどおっさんが片手間で済ませてしまい、僕にはほぼ回ってこなかった。
ここのところは稀なケースだと思う。
ギャップ3.自分のアイデアは思ったより盛り込めない
商品の開発において、自分のアイデアは思ったより盛り込めない。
パッと思いついた理由は以下。
1.トップのワンマンで商品の企画から開発まで決まってしまうため
2.コストの問題
3.ニーズの問題
4.実力不足
1は特に前職で顕著だが、今の会社でもある。
トップの意向だけで商品の中身が決まることは少なくない。
生産性のない会議を重ねることで、社長の口にあう、どこにも需要の無い、デザインもネーミングも超ダサいうんこみたいな商品が生まれることがある。
当然自分のつけ入る隙は全く無い。
2はコストの問題。
試作では美味しいものが出来ているのだけれど、工場への落とし込みや採算性を考えた時に「それじゃムリだよね」という話。
会社は儲けてなんぼなので、ここは仕方ない。
3はニーズ。
自分がこの味や風味がいいと思っても、まったくニーズがなければ売れないし、イコールゴミ商品である。
1と通ずるものがある。
4は知識や実践不足。
ここは頑張りでなんとかするところ。
ギャップ4.コンビニはエグイ
今や生活になくてはならないのがコンビニ。
だが、その陳列している商品の裏には各メーカー様の血と汗と涙が隠れている。
まず、とんでもなく商品の回転が早いので苦労して作った商品が1シーズンで普通に消える。
1シーズンもたない時もある。
またコンビニ様>メーカーの構図なので、振り回される。
一生懸命作った商品を営業に渡してプレゼンに臨んだら、プレゼン直前にむこう都合で中止になるとかしょっちゅうだ。
余談だが、冷凍食品なんかはまだいい方。おでんを最高の状態でプレゼンするため数時間煮込んだにも関わらず、プレゼン中止…なんて話も聞いたりする。
あと開発を進めていて最終提案品まで完成したが、その直後コンビニ側の担当者交代と部内編成が勃発。
開発案件が振り出しに戻ることもある。
某カリスマ社長が陳列された某商品を試食。
「人参不味いな」の一言で翌日からその某商品が姿を消したこともあったらしい。
突然依頼がきて3日後商品の提案ヨロシク☆なんてこともある。
ギャップ5.入社後に勉強すれば開発の知識は身につく
学部で勉強したことをそのまま開発の知識につなげると良いとは思うが、必須ではないように感じる。
例えば前職の醤油・味噌メーカーでは醸造学科出身の先輩がいたが、1年くらい経つと知識の差は結構埋まっていた(先輩がポンコツか、あるいは僕が秀才か…)。
日々の業務で嫌でも基本的なことは覚えるし、勉強せざるをえないことは嫌でも勉強する。
少なくとも中小レベルの食品開発であれば、入社前の専門知識は十分条件ではあるが、必要条件ではない。
んで今(2018年3月現在)は売り手市場なので、もし食品の開発にどうしても行きたくて、求人が見つかれば、ガンガンアプローチすれば就けると思う。少なくとも僕の今いる会社はウェルカムだ。
ギャップ6.少なくとも僕は開発部長などやりたくない
どこでもそうだが、当然役職がつくことで部下を持ち、統括する役目が出てくる。
責任も出てくる。
変な幹部研修(笑)も受けないといけなかったりする。
僕の場合、元々の料理好きなこともあって食品の開発に興味を持った。
その視点からすると実務的な商品開発にほぼ携わることが出来ず、業務の大半がマネジメントの部長職は嫌である。
事実、現場的な商品開発が好きで、役職がつきそうになると転職してしまう人もいる。
先月辞めた上司がそうであった。
ギャップ7.思ったよりも「食うのが仕事」
良くも悪くも「食うのが仕事」だ。
朝から試食→昼試食→夕方試食、なんてのはザラにある。
市場調査で日に同じメニューを何軒も回るのもザラにある。
食べることが好きな人にとっては天職かもしれない。
ただ同じメニューを食いまくるので、その食べ物をうけつけなくなったりする。
また気をつけないとすぐ太るし、健康に支障をきたしたりする。
今の会社の3、4割くらいの人は健康診断で普通にひっかかる。
ただこれは現職の話。
前職の全く開発をしない会社では試食もないし、市場調査で外に飯を食いにいくことも無し。
おわり
ざーっとギャップを並べてみた。
とりあえずパッと思いつくのはこんなところである。
気が向けば、他の記事で内部の実態などつらつら書いてみたい。
※食品の開発職は業種を選べば、全然食費がかかりません
「食うのに困らなそう」で食品の開発職を選ぶのは案外良いかもしれない
また「こういうところはどうなんでしょう?」みたいな学生や開発就職希望者からの質問もどしどし募集中。
DM待ってます。
2018年4月14日
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